【「働く幸せ」とは? 日本理化学工業(株)大山会長を偲んで】

先日、大変に、哀しいニュースが飛び込んできました。

 

日本一の「チョーク」の生産量を誇り、また日本で最も「障害者雇用」に尽力された、

日本理化学工業(株)の大山会長が、2019年2月7日に、87年間の、尊き生涯を終えられました。

 

・日本理化学工業(株)ホームページ

http://www.rikagaku.co.jp/handicapped/index.php

 

大山会長の著書、「働く幸せ」~仕事でいちばん大切なこと~の中に、かの有名な、こんな一節がでてきます。

「人間の究極の幸せは、

人に愛されること。

人にほめられること。

人の役に立つこと。

人から必要とされること」

引用元:「働く幸せ」~仕事でいちばん大切なこと~

当時、大山会長の元には、縁あって、二人の知的障害を持つ女性が働いていました。

しかし、今後も雇用を続けていくべきか悩んでいた時、ある住職から、この言葉を贈られたそうです。

「働くことによって、2番目から、4番目を得ることができるのですよ」

この言葉で、大山会長の迷いが吹っ切れたそうです。

 

「私は、障害者たちに、

『今日も、よく頑張ってきてくれたね、ありがとう』

『一生懸命仕事をしてくれたから、とても助かったよ』

といった声をかけます。

こうした言葉をかけあうのは、職場ではごく当たり前のこと、私にすれば、単なる挨拶のようなものでした。

しかし、

『そうしたやり取りによって、人の役に立っている、必要とされていることを実感できる。それが幸せと言うものですよ』

と、住職は教えてくれたのです」

引用元:『働く幸せ』より

 

私も、この言葉に、どれほど勇気をもらってきたか。

迷った時や、軸がぶれそうになったとき、いつも、この言葉に支えられてきました。

 

【人を工程に合わせるのではなく、工程を人に合わせる】

 

大山会長の偉業のひとつは、「従業員84人中、62人が“知的障害者”」(平成31年現在)という経営を成り立たせてきた、その「製造工程の改善への挑戦」にあったと思います。

 

日本理化学工業(株)を一躍有名にした一冊、

「日本でいちばん大切にしたい会社」 坂本光司著

の中に、こんな一文があります。

 

「一人一人と付き合いながら、何ができて、何ができないのか、ということを少しずつ理解していき、人に合わせて工程を組み立てていく」

引用元:「日本でいちばん大切にしたい会社」

 

気の遠くなるようなプロセスです。

 

「君は、色の識別はできるよね。じゃあ、ラインに流すチョークの粉と、バケツの色を同じにすれば、バケツの中に入れる粉の色も間違わずにすむね」

「君は、はかりの目盛を読むことは苦手なんだね。じゃあ、はかりを使わなくても、重さを測れるよう、最初から“重り”をつくって、この“重り”と同じ重さになるように、粉を測れるように工夫しよう」

 

こうやって、ひとりひとりが、やがて、全員が、ムリなく、作業ができるようになっていきます

「彼らは、安心して、集中できるとわかったら、自分の持てる能力を最大限に発揮し、決して健常者に劣らない、仕事をすることができます。

大切なのは、働く人に合わせた生産方法を考えることなのです」

引用元:「働く幸せ」より

 

これも、「人が辞めない職場」をつくるうえで、とても大切な視点だと思うのです

 

【人は、凸凹があって当然】

 

「それは、障害者雇用の会社の話でしょう。うちの会社では当てはまらないです」

と、お感じになる方も多いかもしれません。

 

しかし、完璧な人間など一人もいません。誰もがみな、「凸」であり、「凹」です。

 

集中すると、まわりが見えなくなってしまうスタッフもいます。

逆に、一つのことに集中できず、仕事を完成できないスタッフもいます。

その代わり、臨機応変な対応が得意です。

 

接客は好きだけど、数字が苦手なスタッフもいます。

売場をつくるのは好きだけど、人とのコミュニケーションが苦手なスタッフもいます。

 

そう、誰もが得意なことや、苦手なことのせめぎあいの中で、毎日、働いてくれています。

 

それなのに、どうしても「仕事のやり方」「進め方」を、「均一化」「均等化」せざるを得ない状況が、今の日本の職場にはあります。

「やり方」はすでに決まっていて、それができないスタッフは、「ダメスタッフ」の烙印を押されてしまう、そんな風潮です。

 

本当にそうでしょうか?


唐突に、自分の店長時代の話で恐縮です。

かつて、自分が店長を務めていたアパレルショップは、(今だから言えますが)私も含め、凸凹の集まりでした。

 

当時、スタッフ全員が「元お客様」ということがありました。

お店に通ってくれていた、「顧客様」が、「私もこのお店で働きたいです」と、次々に、自店に入ってくれたことがあったのです。

それは本当にありがたいことだったのですが、何せ、皆さん、「販売未経験」。

「私、、、人見知りなんです。知らない人に声かけるなんて、ムリです、、、」

……なんで、接客やろうと思った?(笑)と言うような、少々コミュ下手なスタッフばかりが集まってきました。

 

当時、アパレルショップは、「まずは接客!接客ができないうちは、ほかの仕事なんか任せなくていい!」という風潮がありました。ので、とことん、「接客」をやらせて、鍛えているお店もたくさんありました。

 

しかし、うちのお店で、それをやってしまうと、彼女たちは、自信を失ってしまうかもしれません。

「向いてないかも」と感じ、遣り甲斐が見いだせなくなってしまうかもしれません。

 

接客はもちろん、お店の大切な仕事の一つではありますが、それが全てではありません。

もっと、彼女たちが自分の能力を発揮できるやり方で、仕事を覚えてもらう方法はないだろうか?

 

私はまず最初に彼女たちに聞いてみました。

「うちのお店で、やってみたい仕事ってある?」

 

なかなか、答えが出るまで時間がかかりましたが、やがて

「前から、このお店のディスプレイがすごくカワイイって思ってて。いつか自分もできたら、嬉しいです」

「前、イベントのお手紙をもらった時、すごくうれしくて。ああゆう、手紙(当時は、手作りでカタログをつくってました)って、誰が考えてるのかなぁって。なんか、楽しそうですよね」

と、ぽつぽつと、自分がやりたいことや、やったら楽しそうなことを話してくれました。

 

「わかった!じゃあ、ディスプレイ、〇〇さんにお任せします!今から、“売れるディスプレイのつくり方”を教えますね!」

 

「よし!じゃあ、次のイベントのDM、〇〇さんに考えてもらおう!自分がお客様だったらどういうDMをもらったら、嬉しいか、アイデア出してくださいね!」

 

入店後、1~2週間で、メインディスプレイや、イベントのDMを任されたスタッフはいないかもしれません。

(やがて、彼女らは、お店の売上を牽引するスーパー販売員に成長していくのですが、その話は、また別の機会に)

 

大切なことは、順番通りに仕事を覚えたり進めることではなく

「スタッフ一人一人が、”自分はこのお店に必要とされている“と実感できること」であり、

「このお店なら、自分の力を発揮できるかもしれないと感じて頂くこと」です。

 

全く、レベルも次元も違い、引用するのも大変憚られるのですが、大山会長のおっしゃる、

 

――大切なのは、働く人に合わせた生産方法を考えることなのです――

 

のお言葉に、深く深く共感するのです。

 

【「なんで、できないの?」と言う前に】

 

人材育成のお悩みについて、店長からお話を伺い際、必ずと言っていいほどでてくるのが、

「やや扱いのめんどうなスタッフ」についての相談です。

 

「同じミスを何度も繰り返すんです。なんでなんでしょう?」

「ちょっと指摘すると、すぐに落ち込んで、なかなかモチベーションがあがってこないんです」

「普通のスタッフが5教えればできることを、その子は、1から10までしっかり教えないとダメなんです」

 

こういう言葉を聞くたびに、思うのです。

 

――どれだけ、相手に合わせた、教え方を考えてくれているのだろう?――

 

店長も、お忙しい。

から、一人一人に合わせて、、、なんていう余裕はないのかもしれません。

 

では、店長は、考えなくていいです、ただ、聴いてあげてほしいのです。

 

「どんなことが得意?」

「うまくいってる時は、どういうとき?」

「どういう風に覚えると、覚えやすい?」

「ミスせずにやれるときって、どういう時かな?」

 

――どうすれば、このスタッフは、自分の力を発揮できるようになるだろう?――

 

この問いから、どうか、逃げないでほしいのです。

そこに、「創意工夫」が生まれます。その仕事が苦手なスタッフが、できるようになったら、ほかの苦手なスタッフにとっても、それはとてもやりやすい「方法」になります。

それらが、積み重なっていけば、たとえ、接客が苦手でも、コミュニケーションがとれなくても、数字が苦手でも、売場づくりが下手くそでも、「みんなができる方法」を見出していけると思うのです。

 

「やめない店」とは、「苦手なことばかりやらされて、自信をなくす店」ではなく、

「苦手なことでも、できるように、みんなで工夫しながら成長していける店」ではないでしょうか?


最後に。

 

一度だけ、大山会長にお目にかかったことがあります。

ご縁をいただき、すぐ目の前で、お話をお伺いすることができました。

 

その神々しいお姿。

あたたかな、お言葉の数々。

 

人生の宝物です。

 

――利他の歩みこそ より大きな 自己実現の道――

 

大きすぎるお言葉ですが、その道を見失わず、また今日から、一歩一歩進んで参りたいと思います。

 

心より、ご冥福をお祈りいたします。